技術者の背中

松末 崇史

Takashi Matsusue

製造部 部長
2000年入社(43歳)

小原 達矢

Tatsuya Kobara

製造部
2016年入社(27歳)

親子ほど年が離れていて、普段は家族のような関係でありながらも、いざ帽子をかぶって工場に立つと、その背中からは独特のオーラが醸しだされる。近いようで遠く、遠いようで近い。工作機械がリズミカルに金属を削る音の合間に、ふたりの技術者の情熱とプライドが沸き立っていく。

機械の操作ではなく、自分の頭で考えるものづくり

小原さんは好奇心旺盛な若者だ。大学では電気電子システムを学びながらも、「今まで関わった事のないものづくりがしてみたい」と長崎鉄工所の門を叩いた。精密金属加工の世界は、人生で初めて足を踏み入れる場所。最初はNC機にプログラムを組むことから始まったが、「機械の操作自体は、誰でも覚えられるものですよ」と言う工場長の松末さん。彼も今では工場長という立場ではあるが、大学では文学部を専攻し、東京で料理人をやっていたという異色のキャリアを持つ。松末さんの言うとおり、小原さんが最初にぶつかった壁は、機械の操作ではなかった。「図面をもらってから、加工の手順を自分で考えるのですが、完成品をイメージできないので、どこから削り始めていいのか分からなかったんです」と小原さん。周りの先輩たちに聞きながら、ひとつずつ覚えていき、徐々に完成形のイメージから逆算して、加工手順を考えられるようになっていった。
そうしたなかでも、全くの新しい図面に出会うとわからないことも出てくる。しかし、松末さんはすぐに答えを示してはくれなかった。「『これはどうやるんですか』と聞いてこられるより、『こうしようと思うんですけど、どうですか?』と聞いてもらいたいんです」と松末さん。彼は簡単に答えを示してしまうことで、若手技術者が自分の頭で考えるクセがなくなってしまうことを危惧していたのだ。


先人から受け継いだものも、
時代によって変わっていく

松末さんもかつて先輩から言われたことで心に残っていることがある。職人技でものづくりをするベテランの先輩から「若い子に4工程のやり方を教えたら、その子は一生4工程で仕事をするようになる。スピードを意識せんようになるぞ」と松末さんは忠告された。もちろん先輩の言うことは正しい。でも、松末さんにはゆずれない信念もあった。それは絶対に怪我をさせてはいけない、ということ。工程を少なくし、スピードをあげることで、安全性が脅かされることもある。だからこそ松末さんは小原さんにはこう教える。「この製品は無理すれば3工程で出来る。けど、安全性を考えて4工程にするのもベター」だと。小原さんにもその想いは伝わっているようだ。「松末さんは僕がどんなにミスしても怒らないんですけど、危険な行為だけはしっかり注意してくれます」。
松末さんのモットーは、横着をしないこと。手間を省くのと横着はちがう。横着をするからミスにもつながるし、怪我もしてしまう。それは、ものづくりに対する姿勢に関わってくる部分だろう。そういう意味では、松末さんより上のベテラン職人たちも、決して横着をしているわけではない。「先輩方は、私から見ても化け物ですよ」と失笑する松末さん。神業とも言うべき職人技で、コンピューター制御と同じ精度の高い加工を、自分の手と感覚で出来てしまう。そんなレジェンド級の技術者が現役で活躍していることは、若手の小原さんにとっても大きな刺激になっているようだ。「考え方も、作業スピードも段違いに早いんですよね。そういう偉大な先輩たちの仕事を目の前で見られるのは、めちゃくちゃいい環境だと思います」。


ものづくりのDNAは、
形を変えて次の世代へ

現在は入社4年目を迎えた小原さんだが、松末さんは「まだまだですよ。早く私を追い抜いて欲しいですね」といたずらっぽく笑う。ただ最近、松末さんから見ても小原さんの成長をひしひしと感じるようだ。「図面を渡すときに、『これくらいの時間がかかるだろうな』と想定しているのですが、気がついたときには次の製品の加工に取り掛かっていたことがあって」。小原さんは丁寧でミスの少ない仕事には定評があったが、そこにスピードが加わってきたという。「一度ミスしたことを繰り返さないように、いかに早く正確にやっていくか。それは入社当時から先輩に言われてきたことなんです」という小原さん。それを聞いて、松末さんが自分も若手だった頃を回想した。
当時の先輩たちは、職人技とも言うべき世界で勝負していた人たち。そこに説明する言葉などはなく、ただその背中を見続けるしかなかった。「感覚でものづくりをしているようで、やっていることが全て理にかなっているし、寸法もぴたりと合っているんです」と松末さんは語る。言葉にするのが苦手な職人肌。でも、背中で語りかけてきたことは松末さんにも、さらには今の若手である小原さんにも伝わっている。「やっぱり先輩の背中は追いつけ、追い越せという気持ちは持っています」と小原さん。さらに今の時代だからこそ、これからの若手には言葉で伝える必要性も感じているという。「この工程は、なぜこうするのか。先人たちが背中で語ってきたことを、言葉にして分かりやすく次世代につないでいくのが、僕たちの世代の役目だと思っています」。小原さんはそう言って、帽子をかぶり直し、持ち場に戻っていった。そんな若手技術者の少しだけ大きくなった背中を、松末さんは頼もしそうに見つめていた。


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